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第2 調査結果の概要

2 行政対応の問題点や疑問点等について

(5) 平成9年12月の退職願撤回後の行政対応の問題

ア 行政対応に柔軟性がない
その後、県はこの問題について、9年12月頃に決めたと思われる「まずは借金を返させる」という方針のもとで終始一貫して対処してきている。
しかし、元県幹部がいうところの融資の最終返済期限が10年3月末だったにもかかわらず、その期限を過ぎても返済は全くされていない。さらに、その後も返済が一寸延ばしになっている。
このように状況に変化があれば、県としては当然従来の方針を再検討し、見直すべきであった。

イ 重要案件の適切な進行管理がされていない
(ア)これだけ大きな事件であるにもかかわらず、その後の進行管理がほとんどなされていない。
すなわち、人事当局は、退職願が撤回された時点で、この問題はほぼ解決したと認識し、海洋局も人事当局から何の連絡も受けていなかったため、何ら問題意識 を持たず、商工労働部もただ「早く返しなさい」を繰り返すのみであった。事実上この問題を責任をもって処理する部署はないという、まさに県庁全体が無責任 体制となっていた。

(イ)海洋局に適切な情報伝達や指示がされていなかったために、10年9月の高知県内水面漁業協同組合連合会からの1500万円の一時流用事件、さらに10月の須崎市の会社役員に対する1500万円の詐欺事件へとつながった。

ウ 新旧副知事の事務引継等に関する食い違い
(ア)新旧副知事の事務引継は、10年3月28日に口頭で、同31日に文書でそれぞれ行われているが、この元県幹部の問題について、前副知事は「正式文書 ではしていないが、人事上の問題として口頭で伝えたつもりだ」と主張し、これに対して現副知事は、「文書でも、口頭でも一切引継は受けてない」と主張し、 完全な食い違いが見られた。
元県幹部は有能な職員であり、新旧副知事とも厚い信頼をおいていた職員である。その彼が引き起こした県政史上最大の不祥事なのだから、単純な「記憶違い」 などあり得るはずがないと思うが、いずれにしても事務の最高責任者の間でこのような食い違いがあること自体が重大な問題である。

(イ)また、現副知事は、元県幹部の問題について、「前商工労働部長から本格的に報告を聞いたのは、10年の9月下旬である」と答弁し、これに対して前商工労働部長は、「副知事にはもっと早い時期に報告したと確信を持っている」と答弁しており、この点でも食い違っている。

エ 現副知事の対応
(ア)副知事は、10年9月に前商工労働部長からこの問題について本格的に報告を受けたとしているが、その内容については、「母親名義で高知商銀から5億 円借りている、大変なことだ。退職願が出されて、撤回になった。貸付限度額超過、員外貸付、無担保であることは聞いたが、違法性については説明はなかっ た」としている。
このとき副知事は、「9年に返すことが先決という判断をしていると聞いたので、いろいろ問題もあるが、引き続き返させることが先決だと判断し、それでいきましょう」と指示している。

(イ)副知事は、10年12月18日と11年1月29日の2回、元県幹部と面談、事情聴取しているが、この時点でも真相を聞き出すことができていない。

(ウ)副知事は10年10月頃、知事から「海洋局次長の問題についてよろしく」と言われ、「今までどおり返させる方向でいきます」と答えたが、このとき知事からの指示は特になかった。

(エ)知事に5億円とか無担保といった詳細な報告をしたのは11年2月17日である。
これらの対応から次のような問題点を指摘できる。
(1)元県幹部が検査監督対象である高知商銀から無担保で5億円を借り、全く返済がされてない状況等を把握した10年9月時点で、この事件は明らかに信用失墜行為にあたり、懲戒処分の対象になると認識できないのはおかしい。

(2)10年9月に従来の対応方針どおりいくという判断をしているが、この判断は知事に報告のうえで行うべきであった。

(3) 10年10月に知事から「海洋局次長の問題についてよろしく」と言われたときに、どうして知事にこの事件の詳細な報告をしなかったのか、極めて問題であり、また不自然である。

(4) 知事への事件の詳細な報告が11年2月とは余りにも遅すぎる。これでは事態の認識が極めて甘く、重大な責任がある。

オ 元県幹部の金の使途の確認と高知商銀に対する指導内容等
県は、元県幹部の金の使い道について、知人の企業経営者に又貸ししたと聞いているが、公務員が民間企業にこんな巨額の資金を又貸しするはずがない。しか も、又貸しした先の企業名は言えないという。 一方で、高知商銀に対して元県幹部は、深層水関連の用地の先行取得資金など職務遂行の都合と言っている。県 はこうした事情を承知していながらその矛盾を全く追及していないし、これらの事実を高知商銀に全く伝えていない。
これでは、県はこの問題の真相を究明し、早期解決を図ろうという意欲は全くなく、むしろ、このことを高知商銀に知られ、事件が公になることを恐れていたとさえ思える。

カ 四国財務局へのこの問題の報告内容と報告時期等について
県は四国財務局と定例的に協議をしているが、県が四国財務局に対し、この融資案件に県の職員が関係していることを報告したのは、事件の把握から1年余も経過した10年12月25日と著しく遅れている。
これでは、県は事件の発覚を恐れ、意識的に報告を遅らせたとしか思えない。
このことは、執行部が、財務局との協議経過等を詳細に記載した内部資料を県議会に提出していなかったことや、当委員会での執行部の説明、答弁からも推測することができる。