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第2 調査結果の概要

3 責任の所在と再発防止対策等について

(1) 責任の所在について

ア 元県幹部の責任
まず、最も責任を問われるべき者は、今回の不祥事の原因を作った元県幹部である。
元県幹部は先物取引の深みにはまり、県の同僚や知人等から次々と借金を重ね、資金繰りに困り、ついに、公務員として絶対に行ってはならない地位の悪用によって、検査・監督対象である高知商銀から5億2500万円もの多額の金を違法に借り入れた。
そして、返済不能に陥り、高知商銀を破綻に追い込む大きな要因を作った。
さらに、融資の事実発覚後も、県をはじめ関係機関を一貫して騙し続け、県はもとより、関係機関に対し取り返しのつかない行政不信や損失を与えた。
元県幹部は、今年3月16日に懲戒免職処分を受けた後、詐欺、背任容疑で捜査当局に逮捕され、現在、高知地裁においてその重大な責任を問われているのである。

イ 県庁組織全体としての責任
これまで明らかにしてきたように、事件の重大性等から勘案すると、当然全庁的な対応をすべきものであったが、むしろ逆に全庁的な問題として対処することを 意識的に避けたようにすら思われる。このような危機管理に全く対応できない県庁組織、職員の意識構造となっていることは、幹部職員に重大な責任があると言 わなければならない。
具体的には、この問題について、知事や副知事に速やかに正確な情報が伝わっていないこと、関係部局間の横の連携や課長から知事までの縦の連携の欠如、新旧副知事の事務引継の食い違い、情報の共有や伝達方法に大きな問題があることなどである。

ウ 商工労働部の責任
商工労働部は、関係部局の中でこの事件の事実関係や問題点等を唯一おおむね正確に把握していたと思われる。
しかしながら、次のような問題があり、その責任は重い。
(ア)この融資の大部分は、元県幹部が商工政策課長当時の平成8年6月から9年3月までに受けているにもかかわらず、その事実を把握できなかった。
(イ)事件を把握してから後の対応として、事実関係や問題点を総務部や海洋局、新旧副知事、知事に迅速かつ正確に報告、連絡、相談等をすべきであったが、これらが不十分であったり、また全くされていないものがある。
(ウ)元県幹部の借り入れ理由と高知商銀の貸し出し理由、さらには本人が県に対して説明した借り入れ理由との矛盾を明確に承知していたのに、その情報を高知商銀に伝えなかった。
(エ)この融資に県職員が関係していることについて、四国財務局への報告が合理的な理由もなく10年12月と著しく遅れた。

エ 総務部の責任
この問題の処理に関して人事当局の果たす役割は極めて重要であったが、要所、要所で大きな判断ミス等を犯しており、その責任は重大である。
(ア)9年12月に退職願が出されたとき、人事課長は本人からもっと詳細に事実関係や金の使途などを聞くべきであった。
(イ)この時、人事課長は商工労働部や海洋局からも詳細に事情を聞くとともに文書で報告を求め、その上で副知事に報告すべきであった(あるいは、関係部局と一緒に報告すべきであった)。
(ウ)人事課長が、この事件の概要や退職願の提出・撤回の経緯等について総務部長に報告した時期が10年2月頃と著しく遅れた。
(エ)人事課長は、退職願が出された時点で総務部内で直ちに十分な協議をすべきであり、少なくとも対応方針や措置結果については直ちに部長等に報告すべきであった。また副部長や部長も報告を受けた時点で部内で協議を行うべきであった。
(オ)これだけの大事件についてその概要を知り、また事情聴取をしていながら、この事案が懲戒処分に該当するとの認識がなかった上、退職願の撤回後も人事当局として適切な進行管理をしなかった。
(カ)退職願の撤回等について、服務監督権者の海洋局長に何ら連絡や指示をしなかった。

オ 海洋局の責任
9年10月に商工労働部がこの融資の事実を把握した当時、元県幹部は海洋局次長の職にあり、その服務等の監督責任は海洋局長にあった。そして元県幹部は、9年12月19日に人事課長に退職願を提出した際に、海洋局長にも退職願について報告をしているのである。
この退職願の提出を知った後の海洋局の対応は、次に述べるとおり極めて問題があり、その責任は免れない。
(ア)この事実を知れば、海洋局長は、服務監督の責任者として元幹部の借金の理由、その使途、返済の状況等を把握し、指導するとともにその後の生活実態や勤務状況等についても重大な関心を持って見守るべきであったが、それがなされていない。
その証拠に、現海洋局長は「10年4月の新旧海洋局長の事務引継にこの問題は出てこなかった。この問題を初めて知ったのは二度目の退職願が出された11年1月28日である」と言っている。
(イ)10年度に入ってから、高知商銀の職員が再三にわたり県庁の元県幹部のところに借金返済の督促に来たといわれているが、それでもこの事件に気付かなかった。
(ウ)10年9月下旬、元県幹部が県内水面種苗センターが県内水面漁業協同組合連合会に貸し付けた運転資金の一部1500万円を一時的に流用する事件が発生したが、この事件の処理をめぐる海洋局長等の対応にも問題がある。
(エ)10年10月下旬に元県幹部が須崎市の造船会社から1500万円を詐取し、詐欺罪で起訴された事件の管理監督責任がある。

カ 前副知事の責任
当委員会の調査によると、この問題に関する情報は前副知事に最も集中している。また、9年10月の事件把握後から12月に退職願が撤回されるまでの間にな されたと考えられる県としての対応方針の検討・決定も前副知事が最終の意思決定権者となって行ったものと思われる。その点からも、前副知事の対応・判断の 適否が重要なポイントであるが、前副知事の対応等には次のような問題があり、その責任は極めて重大である。
(ア)前副知事は、9年11月に商工労働部からこの事件の概要の報告を受けており、当時は違法性の認識はなかったとのことだが、もう少し詳細に聞けば違法性の認識もできたはずである。
(イ)9年12月に直接元県幹部から事情を聞いた際、金の使途として具体的な企業名を尋ねたが、その答えをもらっていない。疑問に思うのが普通だと思うが、「彼なら返せる」と信頼したという説明はいかにも不自然である。
(ウ)副知事ならば、関係部局からの報告や本人の事情聴取等から知り得た情報で、この事件は地方公務員法違反の信用失墜行為であり、当然懲戒処分の対象になると判断し、対応を指示すべきであった。
(エ)しかるに、前副知事は事務の最高責任者として、「まずは本人から返さすこと」という県としての方針を決めたと思われるが、この方針は明らかに判断ミスであり、以後の対応方針に大きな影響を与えてしまった。
(オ)また、退職願の撤回を認めることによって、以後責任体制があいまいになった。このような重要な事件については、知事に直ちに詳細な内容を報告し、知 事の判断を仰ぐべきであるが、それが十分でない。むしろ、知事に対し「あとは私にお任せください」と以後の処理を引き受けておきながら、適切な対応をして いない。
(カ)このように以後の処理責任を自ら引き受けながら、10年4月の新旧副知事の交替の際、この事件の文書による明確な引継をしていない。そのことが以後の新副知事の対応にも大きな影響を与えてしまった。

キ 現副知事の責任
現副知事は、10年4月1日の就任であり、9年10月から12月までの重要な決定には全く関知していない。
しかしながら、副知事就任後、事務の引継や事件の進行管理等において次のような多くの問題を抱えており、その責任は極めて重大である。
(ア)現副知事は、「商工労働部からこの事件の本格的な報告を受けたのは10年9月」と言っているが、商工労働部は、「ずっともっと早い時期に報告した」 と言っている。また、前副知事は、交替時に「人事管理上の問題として口頭で伝えた」と言っているが、これに対して現副知事は、「文書でも口頭でも引継はな かった」と言っており、真っ向から食い違いが見られる。
(イ)現副知事は、遅くとも10年9月には事件の詳細な報告を受けているが、違法性の認識はなかったと説明している。
これだけの重大な事件で、かつ担当部局から詳細な報告を受けているのに本件が懲戒処分の対象であると気付かないのはおかしい。
(ウ)10年9月に報告を受けた後は、この事件の進行管理は副知事が中心となり、関係部局に指示をしながら行うべきであった。
(エ)この時点で、この事件に対する県としての対応方針について相談をされたが、従来の方針どおり「まずは返さすことでいく」との方針を決めている。返済 が全くされていないのにこの判断はおかしいし、その判断を下すに際しては、知事に事前に報告し、判断を仰ぐべきであった。
(オ)10年10月に知事から「海洋局次長の問題をよろしく」と言われたとき、この事件の詳細な報告をしなかった。

ク 知事の責任
知事は、この事件の処理を副知事に任せているが、組織の最高責任者としての責任は極めて重大である。
また、事件の概要を知ったときの基本認識、要所、要所での事実確認や指示が適正さを欠いていること等に問題がある。

(ア)知事は、「9年12月に副知事からこの事件の報告を受けたとき、深刻な問題として受けとめなかった。したがって、借金の額や借入先、使途等について 聞かなければならないという危機意識が芽生えなかった」というが、その認識や感覚は県の最高責任者として極めて問題である。
(イ)当然、もっと詳細に事実関係や問題点を聞いた上で判断し、指示を行うとともに、その後の取り組み状況等についての報告を随時求めるべきであった。
(ウ)これだけの重大な事件の情報が関係部局長から知事に一切伝わっていないというのは、組織として異常である。知事に対して悪い情報は伝えにくいという体質になっている恐れがある。
(エ)知事の3カ月無給処分を決めた条例改正の専決処分に関する手順等の責任
・この事件の重大性や当委員会で調査中であること等を考慮すれば、 調査結果を待ってその責任を明らかにし、議会審議を経るのが基本 である。
・議会に一切説明せずに、条例改正を専決処分で行うと表明したこと は議会軽視も甚だしい。
(オ)県の組織の最高責任者としての責任
・この事件に対する認識や問題意識の欠如に見られる職員の意識改革 の遅れ。
・部局間や上下のラインの連携が欠けており、情報の整理伝達が不十 分であったため、初期段階で県として致命的な判断ミスを犯した。
・正確な情報が共有されていないため、関係課長や部局長はもとより 副知事、知事までがその職責を果たしておらず、組織としての体を なしていない。
・議会や県民に対する情報提供や説明責任が不十分である。